おかまバーでの恐怖

仕事の都合で、少し都会的な街へ引っ越した。何よりもうれしかったことが、お酒を飲む場所に、苦労しなくて済みなりそうだといことだった。引っ越しが終わった初日から飲み屋街へ繰り出していった。おしゃれな店が多く、これからのことを想像すると無性に楽しくなり、俄然飲む気が湧いてきた。その時、数えきれないほどの飲み屋を目の前に、「全店制覇」というどうしようもない野望に心を躍らせていたのだった。

その日を皮切りに、夜の駅前留学が続くことになった。料理のおいしいところ、お酒に種類の多いところ、騒いでも大丈夫なところ、雰囲気のいいところ、どんなジャンルをも網羅した飲み屋データバンクになるため、新しい店も必ず開拓するようにしていた。そして、ついにあの店を見つけてしまうのです。

重厚な扉を上にはどことなく怪しく光る店名のネオン管。今からしてみると名前自体も怪しかったと思う。遠慮がちに扉を押すと、薄暗い中から黒いドレスをまとった美女がこちらに向かってきた。近づくにつれて彼女がはっきり見えてきた。瞬きすらできなかった。「あーら、いらっしゃい」少しハスキーなだみ声であいさつすると、おっさんはわたしの前でとまった。こういった感じは初めてだった。長い髪にでかい顔、どう見てもおっさんだ。体全体のラインが細く華奢な感じはするが、私より背は高く、180を超えている。名前は「キララ」といった。不思議と自然な感じで受け入れられた。初の試みに不安もあったが、おかまをなめてはいけないということを強く感じた。私より年上で、学歴もあり話がとても面白かった。何より男なだけに、男の気持ちがよくわかり、お互いの話に納得し合えるのだった。

そこからは常連だった。飲みに出ると必ず顔を出し、飲みまくり、食べまくり、歌まくり。しかも、会計はいつでも3000円ときたもんだ。「これでやっていけるのかしら」と思いつつも、そこはいつの間にか私の癒しの場所になっていた。その頃には、キララも私を「パパ」と呼び、店に顔を出すと「パパ~」と甘ったるい声を出して抱き着いてくるようになっていた。どうも昔から男にはモテるようだった。

その日も、キララの店に顔を出したのだが、扉を開いた瞬間から空気の重さを感じていた。キララが私の手を引きお客さんの集まっている席の輪の中に私を招き入れた。いつもと変わらぬ店内なのだが、違和感をぬぐえなかった。お客さんはこの団体だけだった。一人一人の顔を眺めながら一つの事実に気がついてしまったのだ。今、私は13人のおかまに囲まれてるのだと…。隣はノースリーブから見える腕がムッキムキである。逆隣りには化粧の濃い禿げかけのおっさん…

すると、「ムキムキ」が私の携帯を取り上げ、すごい勢いで自分の情報を登録している。耳元で「連絡してね♡」と囁いた。反対側に座っていた「化粧」は「あんたいいわあ♡」「今晩どう?」と何回も何回も繰り返していた。

果たして無事に家に帰れるのだろうか。そんな不安が頭をよぎっていたが、酔っていたためか、案外落ち着いていたような気がする。まさかのおかま大集会にナチュラル男子として単身突撃参加したのだが、キララの『ダーメよ、私のパパなんだから」の一言のおかげかどうかはわからないけれど、無事に乗り切ることができたのだ。13人のおかまちゃんが放つオーラとパワーは圧倒的だったが、一晩一緒に飲むと、みんな面白くていい人たち、仲間だということが分かった。みんないわれなき差別を受けてきたが、自分が自分であることに誇りを持っていることが分かった。みな友だちだった。

 何年か経ち、仕事の都合でまた引っ越しすることになった。その後、何年かぶりに聖地を訪れるとそこにはキララはいなかった。夜逃げしたという風のうわさを聞いた。キララ人が好過ぎたよ。また会いたいな。

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